構え


構えは…自由! と言ってしまったら身も蓋もないが、目の前の状況に柔軟に対応するためには一つの構えに囚われてはいけない。構えは融通無碍に変化していきます

先ず原則として知るべきことは、構えは人間の急所を守るものであるということだ。急所とは顔とボディの二つである。上段の顔と下段であるボディの両面を守りながら身体を動かすことになる

そして、これは構えに限った話ではないが肉体をリラックスさせることが大事だ。心も身体も緊張させた状態では真価を発揮できない

リラックスさせるコツ…なんてものが簡単に見つけられれば誰も苦労はしない。ある意味、リラックスについて語る資格があるのは「悟り」という究極のリラックスにたどり着いた釈迦しかいないだろう。だが、我々にはガンジス川のほとりまで出かける余裕はない

フィジカル・グラフィティを離れた一個人としてはリラックスの最大の敵は自意識だと思う。自意識を消すための手段として、人間はいつか死ぬ生き物だということを再認識することにより虚無感を取り込むことはあります

ここからは、またフィジカル・グラフィティにもどします。これはかなり切れ味の鈍い答えとなってしまうが地道に練習することにより、リラックス出来るポイントを創りあげていくのが一番の近道だ。そうやって自分の力で獲得したものはその人の一生の財産になるのだから、地道を面倒くさがらないでほしい

その地道ということに絡めて強調したいのは、フィジカル・グラフィティでは呼吸は教えないということだ。僕には僕の呼吸がある。が、同時に僕の呼吸でしかない。本来、自然に行うべきことを意識的に創りあげることは、とても危険だ。具体的に言えば、僕の呼吸を真似することは、僕のクローン人間を創ることになってしまう。そんなの気持ち悪いから嫌だ

では、いよいよ紹介

人によって何がリラックスできるかは千差万別だが、やはり自分がボクシング出身の人間なのでボクシングでいうオーソドックスの構えに自分のアレンジをくわえたものを紹介します。ようするに右構えです。(左利きの場合や、柔道の基本である左構えになれている方は言葉のなかの左右を入れ替えてください)

第一に左足を前に一歩出す

第二に左腕を自分の顔の左斜め前に出すことにより、顔のガードをしてほしい(自分の顔の美しさに自信がある方はとくに!)

この段階で言えることは、第一の左足を前に出すことは誰にでもイメージしやすいということだ。しかし、第二の左腕を前に出す段階になると、僕のもつイメージとこれを言葉だけで聞いている人とのイメージでかなりのずれがあると思う

かなり左腕を上げてほしい。ボクシングの初心者の場合でもトレーナーに注意されやすいのがここ。何度となくガードの低さを指摘される

というよりも、世界チャンピオンクラスになっても試合中に慢心が生じたり気が緩んだりするとガードが低くなりがちだ。厳しい練習中に、自分の腕よりも重いものなど散々持ち上げているはずなのだが…

逆に言えば、ガードを上げ続けることがそれだけ難しいということであり、極論してしまえばそんな地味なことこそ奥義だといっていいかもしれない。人間は簡単なことが出来ない生き物だ。とくに基本的な約束事ほど…

ここまでは、オーソドックスにおける左半身の構え方を紹介してきた。このときには左足を前に出した、いわゆる半身の構えであり右半身はやや後ろにひいている

この時に右腕をどの位置のあるのがベストかというと…

ボクシングのオーソドックスな構えの場合は、右腕を顔の右斜め前の位置におくことにより、左腕右腕ともに顔面のガードに使うことが多い

しかし、フィジカル・グラフィティでは右腕をL字型にして臍の上に置くのがベスト。つまり、右腕は下げた状態となる

それでは、右斜め前からの攻撃が避けられないと考える人もいるかと思うが、それはこれから紹介していくディフェンステクニックやフットワークでいくらでもカバー出来る

それでは、顔面のガードを緩めてまで右腕を下げる理由をこれから説明します

まずはボディのガードをするということが一つ。顔面ほど露骨ではないもののボディもまた急所である

そして最大の長所は攻撃に角度が生まれるということだ

顔面の前に構えた左腕からは上からの攻撃

ボディを守るために置いた右腕からは下からの攻撃

攻撃の選択肢が多いほうが、相手にとっては厄介である。攻撃の才能とは嫌がらせの才能と言い換えてもいい

ちなみに似ているものとして、ボクシングの構えの一つであるデトロイトスタイルというものがある。この場合は逆に、相手に近い左腕を下げ、遠いほうの右腕を上げるという特徴がある。顔面が狙われやすいという特徴があるが、それは欠陥ではなく、相手に弱点を晒すことで誘いをかけ、逆にカウンターの餌食とするためです


また、構えをスイッチするときには隙が生まれやすく特に顔面のガードが空きやすいので、後述する防御の動きなどを併用するとよい

そして構えのなかには立った状態としゃがんだ状態の中間に位置するクラウチングスタイルというものもある。腰を落とした状態の重心の低い構えのことです。この構えはよりディフェンスに特化した構えなので、防御の動きを紹介するときに、またあらためて詳しく紹介します(約束は守ります!)

構えの見た目の印象について

僕の構えを見た人はひょっとしたら、腰高すぎて安定性を欠くと感じるかもしれません。これは、僕のパンチの打ち方が単純な足腰の強さに依存しないからです。パッと見、ふわふわしている構えが重力にとらわれない移動も可能とする

足裏のどこに体重をかけているかというと、四方八方に移動するために、どこにもかけていません。逆にいうと一か所に体重をかけずに、足裏に万遍なくかけています

そして、ダイエット目的の方へのアドバイスとしては、綺麗な構えを保つだけで痩せるはず…。理屈ではだが

何故なら、人間というものは機械じゃないから、そんなに理屈通りにいくことは、まずない。なぜなら退屈だからです。パンチも打ちたいだろうし、ダンス代わりにフットワークの練習もしたい気分が出てくるものだ

ただ、人がたくさんいる学校や職場で練習する際に目立つのが嫌な場合は、ほんのちょっぴり構えてみるだけでも効果がある

単純な筋力に頼らずに腕を上げることは――つまり身体のバランスを崩さないような自然な構えは――シンプルではあるけど、とても奥が深いので是非やってほしい。いくら筋力トレーニングを重ねていても、下がってしまうひとはいる。つまり力ではなく体幹からの全身運動なのだ。僕は片腕を下げた状態の構えがベストだと表現したけど、そういう意味では両腕を上げた構え(ボクシングにおけるオーソドックスな構え)にしてみることは、いい練習になる

そして、漫画などによくあるノーガード戦法について

漫画だからと侮ってもいられない。何故なら、実際のボクシングの試合でも時々見かけるからだ。あれは、あえて挑発に使う戦略的な面もあるが、多くの場合は単なる横着…。敢えて練習しなければならないというほどの構えではない。何故なら、日常生活で腕を下げた状態など十分体験済みだからだ


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